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2026/01/07 19:00

【玄米王漫遊記】vol.32 「玄米は毒?アブシジン酸の誤解と、安心して食べるための正しい知識」

玄米について調べると、「玄米は毒」「発芽毒がある」「ミトコンドリアを傷つける」といった、少し不安になる言葉を目にすることがあります。
しかし、これらの情報の多くは、科学的な根拠が乏しいか、特定の情報だけが切り取られて広まったものです。
公的機関や専門家の見解とは、大きく異なるケースも少なくありません。

本記事では、玄米を専門に扱う立場から、論文や公的データをもとに
・アブシジン酸とは何か
・フィチン酸は本当に危険なのか
・玄米で本当に注意すべき「真のリスク」
について、できるだけ分かりやすく解説します。

1. アブシジン酸の誤解

ミトコンドリアを傷つける「毒」なのか?
「玄米に含まれるアブシジン酸が、ミトコンドリアを傷つけ、低体温や不調の原因になる」こうした説を目にすることがありますが、現時点でそれを裏付ける科学的根拠は確認されていません。

アブシジン酸とは何か
アブシジン酸(ABA)は、植物がもともと持っている植物ホルモンの一種です。
主な役割は、
・種子の発芽を一時的に抑える
・乾燥や低温などのストレスから植物を守る
といった、植物にとって欠かせない調整機能です。

玄米は「芽が生きているお米」であるため、白米よりもアブシジン酸を含んでいますが、これは自然なことです。

公的機関による評価
日本の食品安全委員会は、アブシジン酸について毒性試験の結果を評価し、「通常の摂取量であれば、人の健康を損なうおそれはない」と結論づけています。また、2021年には厚生労働省により、人の健康を損なうおそれがない「対象外物質」として整理されました。

さらに重要な点として、
・アブシジン酸は玄米だけでなく、トマト、ブロッコリー、柑橘類など、日常的な野菜や果物にも含まれている
・米国EPA(環境保護庁)やオーストラリアの規制機関でも、安全性が高く評価されている
という事実があります。

これらを踏まえると、玄米のアブシジン酸を「猛毒」として恐れる必要はないと言えるでしょう。

2. フィチン酸の誤解

玄米を食べるとミネラル不足になる?
もう一つよく聞くのが、「玄米のフィチン酸がミネラルを奪い、栄養不足になる」という説です。

フィチン酸とキレート作用
確かに、フィチン酸には鉄や亜鉛などのミネラルと結合する「キレート作用」があります。ただし、玄米に含まれるフィチン酸の多くは、すでにミネラルと結合した「フィチン(混合塩)」という状態で存在しています。

実際のところはどうなのか
玄米中のフィチン酸は、すでにミネラルと強く結合しているため、消化管内で他の食品由来のミネラルを大量に奪うとは考えにくいとされています。

むしろ近年では、
・抗酸化作用
・余分な重金属を体外に排出する働き
といった保健機能性が注目されています。

通常の食事をしていれば、玄米を食べることで深刻なミネラル不足に陥る心配はほとんどありません。

3. 玄米で本当に注意すべき「真の毒性」

玄米の安全性を考えるうえで、アブシジン酸やフィチン酸よりも、科学的に重要なのは別の点です。

残留農薬
お米に残る農薬の多くは、油分の多い「ぬか」や「胚芽」に集まりやすい性質があります。白米は精米でこれらを取り除きますが、玄米は丸ごと食べます。

そのため、
・有機栽培・自然栽培といった農薬の使用を抑えた玄米
・栽培履歴を生産者のみでなく販売者も確認済みである
このような信頼できる玄米を選ぶことが非常に重要です。

ヒ素とカドミウムという現実的な問題
土壌や水に由来するヒ素やカドミウムは、米に蓄積しやすい元素です。
・水田を湛水状態にすると、無機ヒ素が溶け出しやすくなる
・逆に乾燥させると、カドミウムが溶け出しやすくなる
このように、両者はトレードオフの関係にあります。

この課題に対して、農林水産省は過去の全国的な実態調査の結果を踏まえ、カドミウムやヒ素の低減対策が必要な地域に向けた「実施指針」を策定しています。

具体的には、都道府県や関係機関と連携し、
・含有実態の把握産地(集出荷施設単位など)ごとに継続的な分析を実施

重点的な対策の実施基準値を超える可能性がある地域では、
・品種の切り替え・水管理を含む栽培方法の指導
といった対策が計画的に行われています。

このように、現在の米作りは「問題が起きてから対応する」のではなく、リスクを事前に把握し、地域ごとに管理する体制が整えられています。

4. 玄米を安心して食べるための正しい知識

玄米を安全に、美味しく食べるために大切なポイントは次の3つです。

1. しっかり浸水させる(6時間以上)
長時間浸水させることで、
・玄米がやわらかくなる
・消化しやすくなる
・フィチン酸の結合が緩み、アブシジン酸も減少する
といった効果が期待できます。

2. よく噛んで食べる
玄米は食物繊維が豊富です。
一口につき30回以上を目安に、よく噛むことで胃腸への負担を減らせます。

3. 信頼できる玄米を選ぶ
農薬・化学肥料を抑えた栽培のお米を選ぶことが安心につながります。

結論:玄米は「毒」ではありません

玄米に含まれるアブシジン酸やフィチン酸を、過度に恐れる必要はありません。
玄米は、白米に比べて、
・ビタミンB群
・ミネラル
・食物繊維
が豊富で、血糖値の上昇も緩やかな、非常に優れた食品です。

そのままでは扱いにくくても、正しい下準備と知識があれば、豊かな栄養を私たちに届けてくれます。
不安な情報に振り回されず、ぜひ「正しい知識」で玄米と付き合ってみてください。

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<参考文献>
玄米の安全性や成分に関する情報を整理するにあたり、今回の記事作成の根拠となった公的機関のデータ、学術論文、および専門メディアの参考文献をまとめました。

食品安全委員会「対象外物質評価書 アブシシン酸」 (2021年): https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc1_no_abscisicacid_031006.pdf

農林水産省「コメ中のカドミウム及びヒ素低減のための実施指針」 (2024年)カドミウム: https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/index2016.htmlヒ素: https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_as/index.html

農林水産省「農薬小委員会 資料(アブシシン酸)」: https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/nouyaku/attach/pdf/30-9.pdf

岡崎由佳子、片山徹之「フィチン酸の栄養的再評価」 (2005年): https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/39/7/39_7_647/_article/-char/ja/

東京大学大学院「植物種子の金属蓄積に果たすリン貯蔵物質の役割を解明」: https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2012/20121106-2.html

環境省「国内等の動向について(カドミウム)」:https://www.env.go.jp/council/content/i_07/900430078.pdf

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