2025/10/30 13:43
【玄米王漫遊記】vol.31 「削る文化から、残す文化へ」
文化の日に考える「玄米」というもうひとつの文化のお話。
日本の食文化には、「削る」ことを美徳とする美意識があります。
木を削り、石を磨き、言葉をそぎ落とし、素材の芯を見極める。
それは、茶の湯や書道、和食の盛りつけにも通じる「無駄を削ぎ落とす」文化です。
一方で、私たちが毎日のように口にしている「お米」においても、同じように“削る文化”が根付いています。
それが「精米」という行為です。
玄米から糠層を削り、胚芽を取り除いて白米にする。
この行為は単なる技術ではなく、日本人の清浄観や美意識を体現してきたとも言えます。
しかし今、「削る」ことの意味が少しずつ変わりつつあります。
文化の日にあたり、改めて「削る文化から、残す文化へ」という視点から、玄米の可能性を考えてみたいと思います。
精米文化の成立と「白さ」の価値観
日本人が白米を主食とするようになったのは、意外と新しい歴史です。
江戸時代、白米は都市部の富裕層に限られた贅沢品でした。農村では、七分搗きや五分搗きといった半精米が主流で、玄米に近い形で食べられていました。
しかし江戸の町では「白いごはん」がステータスの象徴となり、白さ=豊かさという価値観が広まりました。
近代の精米技術の発達によって、糠や胚芽を丁寧に削り取ることが可能になり、次第に全国へと広がっていきます。
こうして「削る文化」は、美意識だけでなく、社会的な憧れとしても定着していきました。
一方で、白米化が進むにつれて脚気(かっけ)が流行したことは、歴史の教訓として知られています。ビタミンB₁を豊富に含む胚芽や糠を削り取ってしまったことが、その原因でした。
明治以降、栄養学が発達し、「白さの裏で削られていたもの」がようやく可視化されていきます。
「削る」ことの功罪と、現代の転換点
精米の技術は、日本の食文化を支えてきた大切な文化です。
白米は消化吸収に優れ、調理性も高く、扱いやすい。
しかし現代の日本では、飽食と健康志向の時代に入り、「削りすぎた結果」への反省が生まれています。
農林水産省の調査(令和5年度「食育白書」)によれば、食物繊維・ビタミン・ミネラルの不足が成人の課題として指摘されています。
その一方で、糖質過多や生活習慣病の増加が問題となり、主食のあり方そのものが問われるようになっています。
玄米食への関心が高まっているのは、こうした背景の中で「残すことの価値」が再評価されているからです。
糠や胚芽を“削らずに残す”ことで、自然の栄養バランスが保たれます。
最新の研究でも、玄米摂取が血糖コントロールの改善や腸内環境の整備に寄与することが報告されています。
「残す文化」がもたらす新しい美意識
では、「残す文化」とは単に“削らない”ことなのでしょうか。
玄米をそのまま食べるには、浸水時間、炊き方など、繊細な工夫が必要です。つまり、手間をかけて“残す”ことこそが現代の美意識なのではないでしょうか。
また、有機農法や自然栽培によって育てられたお米は、外側の糠層まで安心して食べられるため、「残す文化」の象徴とも言えるでしょう。
「削る」ことで得られた白い美しさから、
「残す」ことで生まれる複雑な香りや滋味へ。
それは、単なる食の転換ではなく、日本人の感性そのものの変化を映しているように思います。
「文化の日」に考える“文化”とは何か
文化とは、ラテン語の colere(耕す)に由来すると言われます。
つまり「文化」とは、もともと「土地を耕し、命を育むこと」。そこから、「心を耕すこと」という意味で使われるようになり、やがて「教養」や「文化」を指すようになりました。
そう考えると、稲作そのものが文化の原点にあると言っても過言ではありません。
文化の日に、田んぼやお米のことを考えるのは、とても自然なことです。
私たちが「削る」「残す」という行為を通じて問われているのは、単なる食の選択ではなく、「どんな文化を未来に残したいか」という問いなのだと思います。
便利さや効率を優先して削ぎ落とした先に、何か大切なものを削っていなかったか。
もう一度、自然や食との関係を“残す”という選択が、次の時代の文化を育てるのではないでしょうか。
おわりに
玄米を食べることは、我慢や修行ではありません。
むしろ、自然のままの形をそのまま味わうという“贅沢”です。
削らずに、残す。
効率を求めず、時間をかける。
その中にこそ、私たちの文化が息づいています。
文化の日に、お茶碗の中を少し見つめてみてください。
そこにある一粒の米が、日本の「削る文化」から「残す文化」への静かな転換を、確かに語りかけてくれているはずです。
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