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2025/04/07 12:49

【玄米王漫遊記】vol.22 出回り始めた「備蓄米」──政府が保有するお米が流通する理由とその行方

近隣のスーパーでも「備蓄米」が販売されるようになりました。お米の価格が高騰する中で、消費者にとっては備蓄米の放出によって米価が下がるのか気になるところです。

この「備蓄米」とは、国が保有していた政府備蓄米の一部を指します。非常時に備えて蓄えられていたお米が、いまなぜ市場に出回っているのでしょうか? 本記事では、その仕組みと背景、そして消費者として知っておきたいポイントをやさしく解説します。

1. 政府備蓄米とは?

政府備蓄米は、正式には「売渡備蓄米」とも呼ばれ、食料安全保障を目的として国が一定量を保有しているお米です。自然災害や不作などによる供給不足に備え、農林水産省が毎年20万トンを目安に買い入れ、最大5年間保管します。

2. どのように売却されるのか?

備蓄米は、一定期間の保管後、「一般競争入札」などを通じて業者に売却されます。入札は月に1~2回程度行われ、主に米菓メーカー、米粉業者、外食産業などの業務用途向けに売却されます。

この備蓄米の売却価格は、民間流通価格よりも割安になることが多く、コストを抑えたい事業者にとっては大きな魅力です。また、売却に際しては政府が等級や産地、年産などの詳細情報を一部制限する場合もあり、一般流通米と比べて情報量が少ないのが特徴です。

3. なぜ今、流通が増えているのか?

2025年1月31日、大凶作以外でも備蓄米放出が可能に!
これまで、備蓄米は「大凶作」や「異常な価格高騰」が発生しない限り放出されることはありませんでした。しかし、2025年1月31日、農水省は「大凶作以外でも備蓄米を放出できる新制度」を発表しました。

この新制度により、実際に放出された備蓄米が流通過程を経て、実際にスーパーなどの量販店で販売され始めています。

4. 消費者にとってのメリットとリスク

実際に店頭で販売されている様子を見てきました。都内のとあるスーパーでは、備蓄米には品種や備蓄米であることの表記がなく、◯◯地方のお米のブレンド米として販売されていました。
一般消費者の方からすると、パッと見ただけでは「備蓄米」であることも「ブレンド米」であることも気がつかないのではないかと思いました。相場よりもやや安価で、具体的には5kgで1,000円ほど安く販売されていました。

国産米が安価に入手できることは、消費者にとっては大変なメリットです。一方で、お米にこだわりのある方は、少し気を付けて購入した方が良いでしょう。

・品種や産地が明記されていないことがある
 通常の市販米と違い、備蓄米はブレンドされている場合や、詳細情報が非公開のこともあります。

・食味が劣る場合もある
 長期保管されていた玄米は、品質管理がされているとはいえ、新米と比べて食味が落ちることがあります。精米後に炊飯してみると、香りや食感に違いを感じることもあるでしょう。
とはいえ、今回放出された備蓄米は比較的新しいものが多いので、過度な心配は必要なさそうです。

・販売元の情報が重要
 転売業者や中間業者による販売では、保管状況や精米・梱包の品質が商品ごとに異なる場合があります。信頼できる販売元から購入することが重要です。

5.備蓄米がブレンド米で販売される理由

店頭でブレンド米として販売されているのには、いくつかの理由があります。

・複数年・複数産地の米が混在している
備蓄米は毎年新たに入れ替えられるため、売却時には異なる年度・地域の米が混在しています。これらをまとめて販売する際、品質を均一に保つためにブレンドされることが一般的です。

・食味や見た目のばらつきを整えるため
長期保管された備蓄米は、新米に比べて食味や色味にバラつきが出やすいです。精米業者がブレンドを行うことで、香りや食感の調整、色ムラの軽減、品質の均一化が可能となり、商品としての安定性を高めることができます。

・単一銘柄としての販売が困難
仮に銘柄や産地が特定できたとしても、備蓄米を「コシヒカリ100%」「あきたこまち単一」などとして販売するには、ブランドイメージなどの問題があります。
そのため、あえてブレンドとして販売することで、品質への期待値調整とトラブル回避を図っていると考えられます。

6.玄米は専門店での購入がおすすめ

備蓄米はブレンド米として販売されることが多く、品質の調整などの工夫をして消費者へ届けていることがわかりました。
主食用玄米の場合、古くなると乾燥によるパサつきや食味の低下を感じやすくなります。そのため、普段の主食として食べる玄米は、備蓄米ではないものを選ぶのがおすすめです。

その上で、玄米のパサつきが気になる方には、もち米を1割程度混ぜて炊飯することで、食べやすくなるという裏技もあります。

備蓄米の正しい理解が、これからの食選びに役立つ

備蓄米は、私たちの暮らしを陰から支える「食の安全ネット」として存在しています。いよいよ、その一部が市場に流通するようになり、消費者の目に触れる機会も増えています。

ただし、目の前にある「安い米」がすべて政府備蓄米とは限らず、その背景や品質、用途を正しく理解することが大切です。特に、銘柄米と同じ感覚で購入すると、想定と違う品質に驚くこともあります。

物価が不安定な時代だからこそ、正確な情報をもとに、納得のいく買い物をしていきたいですね。



<参考資料>
農林水産省「米に関するマンスリーレポート」(2025年3月)
食料・農業・農村政策審議会資料(令和6年度)
一般財団法人 日本穀物検定協会
業務用米流通業者各社の公開資料

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